マルチモーダル AI とは?仕組みやメリット、活用事例などを一挙にご紹介!

マルチモーダル AI とは?仕組みやメリット、活用事例などを一挙にご紹介!

マルチモーダル AI という言葉をご存知でしょうか?異なる種類のデータを同時に処理・理解できる AI のことであり、昨今あらゆるシーンで大きな注目を集めています。

本記事では、マルチモーダル AI の概要や仕組み、活用事例など、あらゆる観点から一挙にご説明します。自社で AI 活用を検討されている方は、ぜひ最後までご覧ください。

マルチモーダル AI とは?

マルチモーダル AI とは、テキストや画像、音声、動画など、複数の種類のデータを同時に処理・理解できる人工知能( AI )のことを指します。従来の AI は、テキストや画像といった単一のデータ形式に特化していましたが、マルチモーダル AI は異なるデータ形式を統合して分析することで、より深い理解や新たな知見を引き出すことができます。

例えば、商品レビューを分析する際に、テキストの内容だけでなく、画像や音声も同時に解析することで、顧客の感情や評価をより詳細に把握することが可能です。また、医療分野では、患者の診療記録(テキストデータ)と X 線画像を同時に分析することで、より精度の高い診断が期待できます。

さらに、マーケティング分野においては、マルチモーダル AI を活用することで、消費者の行動やニーズを多角的に理解し、マーケティング戦略の改善や新製品の開発に役立てることができます。このように、マルチモーダル AI は、異なるデータ形式を組み合わせて活用することで、より複雑な課題に対しても柔軟に対応できる、次世代の AI 技術として注目を集めています。

マルチモーダル AI が生まれた背景

マルチモーダル AI が生まれた背景には、 AI 技術の進化とともに、現実世界で扱われるデータの多様化と複雑化が密接に関係しています。

現代のビジネスや社会においては、私たちが触れる情報の多様化が進んでいます。例えば、 SNS の投稿にはテキストと画像が組み合わされ、ビデオ会議では音声と映像が同時に流れます。そして、これらの多様化した情報を従来の AI で解析するのは徐々に困難になってきたため、この課題を解決するための新たな手段としてマルチモーダル AI が開発されました。

また、技術的な側面では、ディープラーニングやニューラルネットワークの発展が、異なる種類のデータを同時に処理できる基盤を提供しました。これにより、異なるデータ形式の特徴を学習し、それらを統合して分析することが可能になったため、結果としてマルチモーダル AI の開発が実現したのです。

マルチモーダル AI の仕組み

本章では、マルチモーダル AI の仕組みについて解説します。従来の AI (シングルモーダル AI )との比較を交えながら、具体的な内容を見ていきましょう。

マルチモーダル AI とシングルモーダル AI の違い

マルチモーダル AI の仕組みを理解するためには、はじめにシングルモーダル AI との違いを把握する必要があります。

シングルモーダル AI とは、テキストや画像、音声といった単一のデータ形式に特化して学習し、解析を行うような従来の AI を意味する言葉です。例えば、画像認識 AI は画像だけを、自然言語処理 AI はテキストだけを理解するように設計されています。

一方、マルチモーダル AI は、複数のデータを組み合わせて解析を実行できる点が大きな特徴です。例えば、テキストと画像、音声と動画など、異なる種類のデータを同時に処理し、それらの相互関係を理解することができます。これにより、シングルモーダル AI では捉えきれないような、複雑な状況やニュアンスを把握することが可能になります。

以下、マルチモーダル AI とシングルモーダル AI の違いを表したイメージ図です。

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このように、マルチモーダル AI は異なる種類の入力データを AI が分析・理解し、出力結果をアウトプットするのに対して、シングルモーダル AI は入力データと同じ種類のデータをアウトプットとして出力します。

例えば、音声データをシングルモーダル AI に入力した場合は音声データを出力し、テキストデータを入力した場合はテキストデータをアウトプットとして返します。ただし、シングルモーダル AI の中には、 Text-to-Speech (インプットしたテキストデータを音声データに変換する技術)のように入力データと異なる形式のデータを出力するものも存在しますが、これはシステム内部でテキストデータを解析し、それらの情報に基づいて音声データを生成しています。

マルチモーダル AI の仕組み

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マルチモーダル AI は、異なる種類のデータをそれぞれ独立して処理するのではなく、統合的に分析を行う点が大きな特徴です。これを実現するために、 AI はそれぞれのデータを個別に理解するための「エンコーダ」というものを使って特徴を抽出します。例えば、画像からは視覚的な特徴を、テキストからは意味的な特徴を抜き取ります。

次に、それらの異なる特徴を統合するための「マルチモーダル融合」という技術が使われます。このプロセスにおいて、 AI は各データの相関関係を学習し、それらを一つの包括的な理解としてまとめます。例えば、製品のレビューを分析する場合、テキストの感情と画像の視覚的表現がどのように関連しているのかを同時に解析するのです。

最後に、統合された情報をもとに AI が意思決定や予測を行います。このように、マルチモーダル AI は様々な種類のデータを統合・分析することで、シングルモーダル AI が提供する単一の視点と比較して、より多面的かつ包括的なデータ分析を行うことが可能になります。

マルチモーダル AI の活用メリット

企業がマルチモーダル AI を導入することで、どのような恩恵を受けられるのでしょうか?本章では、マルチモーダル AI の代表的なメリットを 3 つご紹介します。

包括的かつ高精度な分析を実現できる

マルチモーダル AI の大きな特徴として、異なる種類のデータを一元的に処理できる点が挙げられます。従来の AI では、テキストや画像、音声など、それぞれのデータ形式ごとに別々の AI モデルを使用していましたが、マルチモーダル AI はこれらを統合して扱うことができます。

例えば、画像とテキストを組み合わせた製品レビューを同時に解析することで、単一のデータ形式からは得られないインサイト(洞察)を引き出すことが可能になります。このように、複数のデータを統合的に処理することで、より包括的かつ高精度な分析を実現できます。

AI が人間に近い判断を下せるようになる

マルチモーダル AI は、複数のデータ形式を組み合わせて分析することで、 AI がより人間に近い判断を下せるようになります。人間は目で見た情報や耳で聞いた情報、言葉で表現された内容などを総合的に判断しますが、マルチモーダル AI も同様に、異なるデータを統合して理解し、複雑な状況でも適切な判断を行うことが可能になります。これにより、 AI が人間のような直感的かつ多面的な判断を行えるようになり、従来のシングルモーダル AI では難しかった様々なタスクに対応できます。

あらゆるビジネスシーンで有効活用できる

マルチモーダル AI は、あらゆるビジネスシーンで有効活用できる強力な武器になります。例えば、マーケティングにおいては、顧客の購入履歴(テキストデータ)と商品レビューの画像を統合的に分析することで、より精度の高いターゲティングが可能になります。

また、製造業では、センサーデータ(音声や映像)と生産ラインのログデータを組み合わせて異常を検知し、メンテナンスの効率化に繋げることができます。このように、マルチモーダル AI は業種を問わずに様々なビジネスシーンで活躍するツールであり、企業が業務効率化や生産性向上を実現するうえで、必要不可欠な存在だと言えるでしょう。

マルチモーダル AI でできること

本章では、マルチモーダル AI でできることをご紹介します。ただし、マルチモーダル AI でできることの幅は広いため、今回取り上げる内容はあくまで一部の紹介に留まる点は予めご理解ください。

テキストから画像・音声・動画を出力

マルチモーダル AI の活用により、テキストから画像や音声、動画などを生成することが可能になりました。例えば、文章で「美しい夕日が海に沈む様子」と記述すれば、 AI はその内容を理解し、対応する画像や動画を自動的に生成します。

また、テキストをもとに音声を作成する技術もあり、ニュース記事や小説を音声で読み上げることができます。これにより、コンテンツ制作の効率が大幅に向上し、ユーザーに対して視覚や聴覚で情報を提供する新たな方法が広がります。

画像から音声・動画を出力

マルチモーダル AI を活用すれば、画像から音声や動画を生成することも可能です。例えば、一枚の風景写真から自然の音や背景音を AI が推測し、それを音声として生成できます。

また、静止画に動きを加えて動画を作成することも可能であり、写真からスライドショーやアニメーションを自動的に作り出すことができます。これにより、静止画が動的なコンテンツに変わり、より豊かな表現を生み出せるようになります。

音声から動画を出力

音声から動画を生成する技術もマルチモーダル AI によって実現されています。具体例として、ラジオドラマの音声データを活用すれば、 AI によってストーリーに合わせた映像を作り出すことが可能です。

また、音声のトーンや内容を解析し、それに合わせてキャラクターが動いたり、場面が切り替わったりする映像を生成することで、リスナーに視覚的な体験を提供することもできます。これにより、音声コンテンツが新たな形で視覚的にも楽しめるようになるでしょう。

生成 AI の代表的なマルチモーダルモデル

昨今、大きな注目を集めている生成 AI の中でも、マルチモーダル AI を搭載したモデルが続々と登場しています。本章では、生成 AI の代表的なマルチモーダルモデルを 3 つご紹介します。

Gemini

Gemini は Google が開発した次世代のマルチモーダル AI モデルであり、テキストや画像、音声、動画などを統合的に処理できる点が大きな特徴です。 Gemini はユーザーインターフェースやクリエイティブなコンテンツ生成に強みを持っており、ユーザーの入力内容に応じて最適な情報を提供することができます。例えば、テキストで指示を与えることで、それに対応する画像や動画を自動的に生成し、プレゼンテーションやデジタル広告に即座に反映できるため、クリエイティブなプロジェクトにおいて有効に活用することが可能です。

ChatGPT-4o

ChatGPT-4o は OpenAI が開発した高度なマルチモーダル AI モデルであり、主にテキストと画像、音声の連携に優れています。このモデルはチャット形式での対話をもとに、関連する画像や音声コンテンツを自動生成する機能を備えており、ユーザーとのインタラクティブなコミュニケーションを実現します。

例えば、ユーザーが質問を入力すると、テキストによる回答だけでなく、関連する図表やイラストを提示したり、音声で解説したりすることができ、教育やサポート業務など、幅広い分野で活用されています。ただし、 2024 年 8 月時点では、前述した図表・イラストの提示などはデフォルトが英語字でのアウトプットです。日本語訳を指示しても正確にアウトプットできていません。そのため、あくまで活用シーンをイメージするための説明である点は予めご理解ください。

Microsoft Copilot

Microsoft Copilot はマイクロソフトが提供するマルチモーダル AI であり、 Word や Excel などのオフィスソフトとシームレスに連携できる点が大きな特徴です。 Microsoft Copilot を活用することで、ユーザーが作業中に必要なテキストや画像、チャートなどを自動生成できます。例えば、ビジネスレポートを作成する際に必要なデータをテキストで入力すると、関連するグラフや図表を自動的に作成し、視覚的にわかりやすいレポートを短時間で完成させることができるため、企業内における情報共有や意思決定の迅速化に繋がります。

マルチモーダル AI のユースケース

ここまで、マルチモーダル AI について詳しく解説してきましたが、具体的にどのようなシーンで使われているのでしょうか?本章では、マルチモーダル AI のユースケースをいくつかご紹介します。

医療診断

マルチモーダル AI は、医療分野での診断精度を大幅に向上させる役割を果たしています。例えば、患者の電子カルテ(テキストデータ)と MRI 画像、さらには心電図データ(音声や波形データ)などを統合的に分析することで、より正確な診断が可能になります。

このように、異なるデータ形式から得られる情報を組み合わせることで、早期の病気発見や治療計画の最適化に繋がります。また、医療現場では、複数のデータソースを一元管理することで、医師や看護師の負担を軽減し、迅速かつ効果的な治療を提供できるようになります。

自動運転

自動運転技術において、マルチモーダル AI は安全性の向上に大きく貢献しています。例えば、カメラ(画像データ)や LiDAR (レーザーによる検知と距離測定の技術)、レーダー(波形データ)など、自動車が複数のセンサーから取得する情報をリアルタイムで統合・分析することで、周囲の状況を即座に把握できます。このように、マルチモーダル AI を活用すれば、自動車が人間のように複雑な交通状況に対応することが可能になり、安全かつスムーズな運転に繋がります。

異常検知

セキュリティ分野においても、マルチモーダル AI は重要な役割を果たしています。例えば、監視カメラの映像(画像データ)と音声検知センサーのデータを組み合わせることで、異常な行動や音をリアルタイムで検知し、迅速に対応することが可能になります。

また、テキストデータからの脅威検知や、アクセスログの分析といった多様なデータを一元的に扱うことで、サイバー攻撃や内部不正の早期発見に繋がります。このように、マルチモーダル AI の活用により、従来の手法では見逃されがちだったセキュリティリスクにも迅速に対応できるようになります。

産業用ロボット

マルチモーダル AI を産業用ロボットに組み込めば、視覚センサー(画像データ)や触覚センサー(振動や圧力データ)、音声センサーなどから得られる情報をロボットが総合的に処理し、複雑な作業を自動化することが可能になります。

例えば、製造ラインでの品質検査において、画像データと触覚データを組み合わせることで、製品の微細な欠陥を検知し、不良品を確実に排除できます。また、作業環境における異常音や振動を検知し、メンテナンスの必要性を予測することも可能なため、産業現場の業務効率化と安全性向上に繋がります。

マルチモーダル AI の活用事例

昨今、様々な企業がマルチモーダル AI を導入し、自社の業務効率化や生産性向上を実現しています。最後に、マルチモーダル AI の活用事例を 3 つご紹介します。

NTT データ(防犯カメラ)

NTT データでは、防犯やセキュリティ分野において、映像に加えて音声などの他の情報も活用することで、より高度な判断を行うマルチモーダル AI の開発に注力しています。この取り組みは、映像分析だけでは検出が難しい迷惑行為が存在することから始まりました。

一般的に、大規模施設の防犯カメラのモニタリング作業は人的リソースだけでは対応が難しく、 AI による映像解析の支援が必要とされています。従来の映像解析 AI は、主に映像データを中心に処理を行っていましたが、例えばビルのエントランスで大声を出して集まる行為など、映像だけでは適切に検出できないケースが課題の一つとなっていました。

しかし、マルチモーダル AI を活用し、映像と音声を組み合わせて解析することで、こうした行為も適切に検出できるようになります。これにより、監視業務の効率化や防犯・セキュリティの強化などが期待されています。

Amazon (ホームロボット)

Amazon が販売している家庭用ロボット「 Astro 」は、主に警備や見守り機能に特化したサービスを提供しており、現在ではマルチモーダル AI にも対応しています。 Astro は周囲の環境を認識するために複数のセンサーやカメラを搭載しており、これらを通して取得した様々なデータをもとに、対象物の状態を学習することが可能です。

さらに、 Astro はユーザーが監視したい項目を学習し、異常が発生した場合には適切に通知する機能を提供しています。例えば、玄関のドアや寝室の窓など、特定のドアや窓を識別し、それらが開いているか閉まっているかを認識し、必要に応じてアラート通知を送ることができます。

このように、マルチモーダル AI の活用により、ロボットの性能を大幅に向上させている好事例だと言えるでしょう。

KDDI ・ NICT ・ NEC ソリューションイノベータ (介護モニタリング)

KDDI 、国立研究開発法人情報通信研究機構( NICT )、 NEC ソリューションイノベータの 3 社は、高齢者向けの対話型 AI を活用した介護モニタリングの実証実験を行う中で、介護モニタリング支援を行うための MICSUS というシステムを開発しました。

この MICSUS にはマルチモーダル AI が搭載されており、ぬいぐるみを模した専用端末とスマートフォンを活用して、高齢者の健康状態や生活状況の変化などをチェックする仕組みとなっています。そして、 MICSUS を活用した結果、面談や記録に要する作業時間を 70% 削減でき、大幅な業務効率化と生産性向上に繋がりました。

まとめ

本記事では、マルチモーダル AI の概要や仕組み、活用事例など、あらゆる観点から一挙にご説明しました。

企業がマルチモーダル AI を活用することで、異なる種類のデータを一元的に処理し、 AI の精度向上や自社の業務効率化などを実現できます。この記事を読み返して、具体的なユースケースや活用事例などを理解しておきましょう。

そして、生成 AI を活用するうえでは Google Cloud が有効な武器の一つになります。 Google Cloud は Google 社が提供するパブリッククラウドサービスであり、自社の業務効率化や生産性向上を実現するための生成 AI 関連サービスが多く搭載されています。

例えば、自然言語処理は Dialogflow などの Conversation AI サービス、画像処理は Imagen など、様々な生成 AI サービスが用意されている点が Google Cloud の大きな特徴です。さらに、 Vertex AI を使えば AI モデルを自由にカスタマイズできるため、自社の状況に合わせて柔軟な AI 活用を実現できます。

また、本記事でご紹介した Gemini や ChatGPT-4o などのマルチモーダルサービスは、一般ユーザー向けの無料提供を前提としており、企業がビジネス用途で使うにはセキュリティ面が万全ではありません。その点、 Google  Cloud は企業向けのビジネスツールとして提供されているため、よりセキュアな環境で生成 AI サービスを利用可能です。

当社 G-gen では、

など、企業様のビジネスを加速させるための幅広いサポートをワンストップで提供しています。

また、 Google Workspace に関しても、実績に裏付けられた技術力や導入支援実績があります。企業様の状況に合わせた利用方法の提案や運用のサポートなど、企業様に寄り添ったサポートを提供していますので、関心のある方は問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。

本記事を参考にして、マルチモーダル AI の活用を検討してみてはいかがでしょうか?

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