ファインチューニングとは? AI モデルをカスタマイズするための方法を徹底解説!
- 生成AI

ファインチューニングという言葉をご存知でしょうか?既存の機械学習モデルを特定の目的やタスクに合わせて最適化することを意味する言葉であり、自社で AI を有効活用するためには、ファインチューニングが重要なポイントの一つになります。
本記事では、ファインチューニングとは何かという基礎知識に加えて、具体的なメリットや実施方法まで、あらゆる観点から一挙にご紹介します。 AI のカスタマイズを検討されている方は、ぜひ最後までご覧ください。
ファインチューニングとは?
ファインチューニングとは、既に学習済みの AI モデルを特定のタスクやデータセットに合わせて調整することです。仮に、大規模な言語モデルが一般的な言語パターンを学習している場合、このモデルをファインチューニングすることで、特定の業界や用途に適した出力を得られるようになります。
ファインチューニングは既存のモデルを利用するため、モデルを一から作成する手間やコストを削減できます。これにより、 AI 開発を迅速に行える点もファインチューニングの大きなメリットです。
ファインチューニングは個別カスタマイズが求められるようなシーンで効果を発揮し、実際に様々なビジネスシーンで活用されています。このように、 AI 運用を効率化するためには、ファインチューニングが重要なポイントの一つになると言えるでしょう。
ファインチューニングの仕組み
通常、 AI モデルは大規模なデータセットでトレーニングされており、様々なパターンや知識を習得していることが一般的です。しかし、特定のタスクに対して高精度な予測や生成を行うためには、より専門的なデータでモデルを調整する必要があります。
そこで、ファインチューニングが大きな効果を発揮します。ファインチューニングは、既存の AI モデルに追加学習を施すことで、特定のタスクなどに対応できるように調整を行います。
具体的には、既にトレーニング済みのモデルをベースとして、特定タスクに関連する少量のデータを使って再トレーニングを実施します。例えば、医療分野のテキストデータを使って、医療に特化した言語モデルを作成するようなケースが考えられます。
この追加学習により、モデルは医療関連の用語や文脈をより正確に理解し、専門的な回答を生成できるようになります。このように、ファインチューニングは時間とリソースを節約しながら、特定のニーズに最適化された AI モデルを迅速に構築するための有効な選択肢になります。
なお、ファインチューニングの範囲(機能する層)に関しては、出力層や最後の数層が対象となることが一般的ですが、初期層から出力層までのすべての層を調整するケースもあります。ただし、モデル全体をファインチューニングする場合、大量のデータが必要になり、計算コストも大きくなるため、この点には注意しておきましょう。
また、代表的なファインチューニングの種類としては、
- 特徴抽出( Extract Features )
- フルファインチューニング( Full fine - tuning )
などが挙げられます。
特徴抽出( Extract Features )は最も一般的なファインチューニングの手法であり、事前訓練済みの LLM ( Large language Models :大規模言語モデル)を固定された特徴抽出として使用します。一方、フルファインチューニング( Full fine - tuning )はモデル全体をタスク固有のデータで訓練するため、モデル内のすべての層に対して調整を行える点が大きな特徴です。
そして、ファインチューニングを行う際の注意点としては過学習が挙げられます。過学習とは、モデルが訓練データに対して過度に適応しすぎてしまい、新しいデータに柔軟に対応できなくなる現象のことです。
例えば、訓練データの不足やモデルの複雑化などが過学習の主な原因であり、仮に過学習の状態に陥った場合、モデルの精度が大きく低下してしまうリスクがあります。そのため、ファインチューニングを実施する際には、十分な訓練データを用意し、モデルをシンプルに設計することが重要なポイントになります。
ファインチューニングと転移学習・ RAG との違い
ファインチューニングと混同しやすい言葉として、転移学習や RAG ( Retrieval - Augmented Generation )が挙げられます。どのような点が異なるのか、具体的な違いを理解しておきましょう。
ファインチューニングと転移学習の違い
転移学習とは、大規模なデータセットでトレーニングされた汎用的な AI モデルを別のタスクに利用するための技術です。例えば、画像認識モデルが一般的な画像を認識できる状態になっている場合、そのモデルを利用して異なる種類の画像を分類できるような、新たな AI モデルを転移学習によって開発することが可能です。
一方、ファインチューニングは、転移学習によって得られた基礎モデルに対して、特定のタスクに合わせたデータをもとに追加トレーニングを行います。そのため、ファインチューニングは転移学習の一部だと捉えるのが理解しやすいでしょう。前述した例で言えば、画像認識モデルを医療画像に特化させるため、少量の医療データで再トレーニングを行うようなケースなどが該当します。
また、転移学習は既存モデルの多くの層を凍結(フリーズ)させて、重みを変更せずに新しいデータに適応させます。ただし、タスクに応じて特定の層だけを凍結するケースもあるので、この点は覚えておきましょう。
それに対して、ファインチューニングは最初の数層(浅い層)のみを凍結して特徴抽出機能を維持し、後半の層を再訓練することが一般的です。このように、凍結層の扱い方に関しても、ファインチューニングと転移学習には違いが存在します。
そして、前述したように転移学習は既存モデルの大部分を凍結し、新しいタスクに合わせて出力層のみを再訓練するため、少量のデータでも高いパフォーマンスを期待できます。しかし、ファインチューニングは転移学習と比較して広範な部分を再訓練するので、その対象となる層に合わせた十分なデータ量を用意する必要があります。ただし、一般的な AI モデルのトレーニングと比較すれば、ファインチューニングは少ないデータでも有効な結果を得ることができます。
このように、ファインチューニングと転移学習には様々な違いがあるため、それぞれの特徴を理解しておきましょう。
ファインチューニングと RAG の違い
RAG とは、生成 AI の品質・性能を向上させるための仕組みであり、主に自然言語処理の分野で注目を集めています。なお、自然言語処理とは、人間が読み書きするような自然な文章を AI が理解・生成するための処理を意味します。
RAG の特徴として、 AI が独自に情報を生成するのではなく、信頼性の高い情報源のデータを利用して回答を生成する点が挙げられます。例えば、ユーザーからのリクエストに対して、関連情報をデータベースや Web サイトから検索し、それらをもとにユーザーに返すための回答を生成します。
一方、ファインチューニングは特定分野に特化した情報を事前に学習するため、 AI がリアルタイムに情報を検索する RAG とは仕組みそのものが異なります。最新データが求められる場面では RAG を活用し、回答形式が定められている専門的な内容はファインチューニングを活用するなど、場面によって使い分けるとよいでしょう。
RAG に関しては以下の記事で詳しく解説しています。
関連記事:RAGとは?仕組みやメリット、注意点などを徹底解説!
ファインチューニングを実施するメリット
企業がファインチューニングを行うことで、様々な恩恵を受けられます。本章では、ファインチューニングを実施するメリットについて解説します。
時間と開発コストを削減できる
ファインチューニングは、既存のトレーニング済みモデルをもとにして、新しいタスクに特化したモデルを作成するためのアプローチです。
ゼロからモデルを開発する場合、
- 大量のデータ収集やモデル設計
- トレーニングのためのコンピューティングリソース
などが必要となり、これらを用意するための多大なコストや長い準備時間が発生します。しかし、ファインチューニングを活用すれば、既に完成されているモデルを開発作業に利用可能なため、開発コストの削減と時間の節約を同時に実現できます。
高性能なタスク特化型のモデルが作成可能
既存の汎用モデルにファインチューニングを施すことで、特定のタスクに最適化された高性能なモデルを作成できます。例えば、画像認識や自然言語処理など、元のモデルの強みを活かしつつ、新しいタスクに必要な微調整を行うことで、高精度かつ実用的なモデルに仕上げることが可能になります。このように、特定の目的やタスクに合わせた AI モデルが欲しい場合には、ファインチューニングが有効な選択肢の一つになるでしょう。
教師データの量が少ない場合でも有効
AI モデルをトレーニングする際には、大量の教師データが必要となるケースが一般的ですが、ニッチな特定分野のタスクにおいては、十分なデータを集めることが困難な場合もあります。その点、ファインチューニングを利用すれば、少量の専門的なデータから既存の AI モデルを特定タスクに適応させることができます。これにより、十分な教師データが用意できない状況においても、 AI を有効的に利用することが可能になります。
ファインチューニングのユースケース
ここまで、ファインチューニングについて詳しく解説してきましたが、具体的にどのようなシーンで利用されているのでしょうか?本章では、ファインチューニングの代表的なユースケースをご紹介します。
画像処理
画像処理の分野においては、高度な画像分類やオブジェクト検出などにファインチューニングが役立てられています。例えば、一般的な画像認識モデルをベースとして、特定の産業分野(医療や農業など)での画像解析に特化させるような使い方が考えられます。
以下、画像処理におけるファインチューニングの代表的なユースケースです。
活用領域 |
ファインチューニングでできること |
医療分野 |
X 線画像や MRI 画像からの病変検出、細胞の分類など |
農業分野 |
農作物の病害虫検出、収穫量の予測など |
製造業 |
製品不良の検出、品質管理など |
このように、少量の専門データから高精度かつ専門性の高い画像処理を実現できる点は、ファインチューニングの大きなメリットの一つだと言えます。
音声処理
音声認識や音声生成においても、ファインチューニングは重要な役割を果たしています。例えば、既存の音声認識モデルを特定の方言や業界用語に対応させるためにファインチューニングを行うことで、地域や業種に合わせた音声認識精度の向上が期待できます。
以下、音声処理におけるファインチューニングの代表的なユースケースです。
活用領域 |
ファインチューニングでできること |
カスタマーサービス |
特定の方言、業界用語に精通した問い合わせ対応など |
翻訳 |
世界中のあらゆる国の言語に対応できる自動翻訳など |
このように、ファインチューニングを音声処理に活用することで、カスタマーサービスや自動翻訳システムなど、様々なシーンにおけるユーザー体験の向上に繋がります。さらに、ファインチューニングを施すことで、特定の人の声質や話し方を再現する音声合成モデルを開発することも可能になります。
自然言語処理
自然言語処理分野では、ファインチューニングが特定用途に合わせた言語モデルの作成に利用されます。例えば、一般的な言語モデルをベースとして、法律文書の解析や医療テキストの処理などに特化したモデルを作成することが可能です。その結果、専門的なコンテンツの理解や生成が高い精度で行えるようになり、 AI の活用効果を最大化できます。
自動運転
自動運転の分野では、ファインチューニングが車両の認識能力を高めるために活用されています。例えば、一般的な物体検出モデルを道路標識や歩行者などの認識に特化させることで、特定の地域・環境に合わせた自動運転の精度向上に繋がります。このように、ファインチューニングは自動運転車両の安全性と信頼性の向上に大きく寄与する仕組みだと言えるでしょう。
自動レコメンド
自動レコメンドシステムにおいては、ファインチューニングがユーザーの嗜好に合わせたパーソナライズされた提案を行うために役立ちます。例えば、映画や商品の推薦アルゴリズムを特定のユーザーグループに合わせて微調整することで、より的確なレコメンドが可能となり、ユーザー満足度の向上に繋がります。
セキュリティ監視
セキュリティ分野もファインチューニングが活用されている分野の一つです。例えば、既存の侵入検知システムを特定のネットワーク環境や攻撃パターンに合わせてファインチューニングすれば、より精度の高い脅威検知が可能になります。これにより、セキュリティリスクを早期に発見し、迅速な対応が取れるようになります。
ファインチューニングの進め方
ファインチューニングを実施する際には、計画的にプロジェクトを進めることが大切です。本章では、ファインチューニングの具体的な進め方を以下の7つのステップに分けて解説します。
- 目的の明確化
- ベースモデルの選択
- データの準備
- ファインチューニングの設定
- モデルの学習
- 評価
- ハイパーパラメータの調整(繰り返し)
以上を各ステップに分けて解説します。
Step.1 目的の明確化
まずは、ファインチューニングの目的を明確化することが大切です。どのタスクに特化させたいのか、どのような結果を期待しているのかなどを具体的に定義しましょう。これにより、後のステップでのベースモデルやデータ選択を円滑に進めることができます。
Step.2 ベースモデルの選択
ファインチューニングの目的を明確化したら、既存のベースモデルを選択します。例えば、画像認識には ResNet 、自然言語処理には BERT など、各モデルの特徴を理解して、最適なモデルを選択することが大切です。ベースモデルの選択はファインチューニングの結果を大きく左右するため、とても重要なステップであると言えるでしょう。
Step.3 データの準備
次に、定義したタスクに適したデータを収集します。ファインチューニングを少量のデータで効果を発揮させるには、そのデータがモデルにとって適切な内容であることが必要不可欠です。そして、データを収集する際には、 Web からのデータ収集や既存データベースからのデータ抽出などを行うほか、専門分野に特化したモデルを作りたい場合は専門性の高いデータを利用するように意識しましょう。
また、収集したデータをそのまま利用することは少なく、まずはデータに対して前処理を施すことが一般的です。例えば、画像データならリサイズや正規化、テキストデータであればトークン化やノイズ除去などを行います。これらの前処理によって、データをモデルに適した形に整えられるため、トレーニング作業を円滑に進めることが可能になります。
Step.4 ファインチューニングの設定
ファインチューニングを行う際には、どの層を再訓練するのかを事前に設定する必要があります。通常、初期の層は凍結し、後半の層や出力層などを再訓練することが一般的ですが、タスクの内容に応じて設定を調整しましょう。この時、モデルの複雑さや計算リソースなどに合わせて、適切なファインチューニングの設定を行うことが重要なポイントになります。
Step.5 モデルの学習
設定が完了したら、いよいよモデルの学習を開始します。ファインチューニングでは、既にベースモデルが存在しているため、学習プロセスは最初からすべての訓練を行う場合と比較して短時間で済みます。この時、少ないデータ量でモデルの微調整を行い、効率的に学習を進められるように工夫することが大切です。
Step.6 評価
学習が終わった後は、完成したモデルに対して評価を行います。具体的には、テストデータなどを使って、モデルの精度やパフォーマンスなどを入念にチェックします。そして、仮にテスト結果が不十分な場合は、次のステップでさらに調整を加えることになります。
Step.7 ハイパーパラメータの調整(繰り返し)
最後に、評価の結果をもとにしてハイパーパラメータ(学習率やバッチサイズなど)の調整を行います。これを繰り返し実践することで、モデルのパフォーマンスが最適化され、より精度の高い結果を得られるようになります。このように、ファインチューニングは一過性の取り組みではなく、何度も調整を繰り返すことでモデルの精度を高められる点を覚えておきましょう。
ファインチューニングを成功させるためのポイント
ファインチューニングを実践する際には、意識すべき点がいくつか存在します。最後に、ファインチューニングを成功させるためのポイントを 3 つご紹介します。
なお、ファインチューニングの実践時に意識すべき点は多岐にわたりますが、今回は「モデル」「環境」「運用」の 3 つの要素に分けて、それぞれ一つずつ代表的なポイントを取り上げています。
過学習の防止
前述した通り、過学習とはモデルが訓練データに過度に適応してしまい、新しいデータに対応できなくなる現象のことです。これを防ぐためには、ドロップアウトなどのテクニックを活用し、モデルが汎用的なパターンを学ぶように工夫することが大切です。
なお、ドロップアウトとは、学習中に一部のニューロンをランダムに無効化する技術であり、モデルが特定のニューロンに依存しすぎることを防ぎ、過学習を抑える効果があります。また、訓練データとテストデータを適切に分割し、モデルの評価を定期的に行うことも重要なポイントになります。
十分なリソースを確保する
ファインチューニングでは、作業にかかる時間や計算リソースなどが必要になるため、プロジェクトを進めるにあたって十分なリソースを確保することが大切です。例えば、データサイエンティストやデータエンジニアが効率的にデータ準備やモデル調整を行えるよう、必要人員の算出やチーム編成などに工夫を凝らすことが求められます。なお、リソースが不足している場合、効果的なファインチューニングを実現することは困難になるため、事前にリソースを確保しつつ、計画性を持ってプロジェクトを進めましょう。
定期的にメンテナンスを実施する
一度ファインチューニングしたモデルだとしても、場合によっては時間の経過とともに劣化する可能性があります。そのため、新しいデータや環境の変化に対応できるよう、定期的なメンテナンスを実施することが大切です。
例えば、最新データを追加して再トレーニングしたり、モデルのパフォーマンスを検証して問題がないかを確認したりするなど、日々のメンテナンスを継続的に行うことで、モデルの精度を高い状態に維持できます。このように、ファインチューニングは一過性の取り組みではなく、定期的なメンテナンスにより効果を最大化できることを覚えておきましょう。
まとめ
本記事では、ファインチューニングとは何かという基礎知識に加えて、具体的なメリットや実施方法まで、あらゆる観点から一挙にご紹介しました。
企業がファインチューニングを実践することで、開発コストの削減やリソースの節約など、様々なメリットを享受できます。この記事を読み返して、具体的なユースケースや進め方を理解しておきましょう。
そして、ファインチューニングを効率的に行うためには、 Google Cloud がおすすめのソリューションになります。 Google Cloud とは、 Google が提供しているパブリッククラウドサービスであり、 Vertex AI をはじめとしたファインチューニングに役立つ AI ソリューションが搭載されています。
当社 G-gen では、
- 生成 AI の活用支援
- システム構築やアプリケーション開発
- Google Cloud の請求代行
- Google Cloud の運用サポート
- Google Cloud に関する技術サポート、コンサルティング
など、企業様のビジネスを加速させるための幅広いサポートをワンストップで提供しています。ファインチューニングに関するサポートやアドバイスも行っているため、関心のある方は問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。
また、 Google Workspace に関しても、実績に裏付けられた技術力や導入支援実績があります。企業様の状況に合わせた利用方法の提案や運用のサポートなど、企業様に寄り添ったサポートを提供しています。
本記事を参考にして、ファインチューニングを実践してみてはいかがでしょうか?
Contactお問い合わせ

Google Cloud / Google Workspace導入に関するお問い合わせ