Gemini Enterprise 導入に向けたガードレール策定 G-gen と整えた AI エージェント活用の土台

「AI 導入において何もない状態でスタートして、後からルールを整えるのは煩雑です。まずベースとなるガイドラインとガードレールが必要だと考えました」
トランスコスモス株式会社 時吉正人氏
トランスコスモス株式会社では、広告運用の効率化やデータ活用の高度化に向け、Gemini Enterprise の導入を進めています。AI エージェントの利用を広げるには、データへのアクセス権限や実行できる操作、情報の取り扱いを事前に整理する必要がありました。一方、新しいソリューションに対応したルールを、限られた時間で自社だけで整備することは難しいと考えていました。
そこで同社は G-gen にコンサルティング支援を依頼し、ガイドラインとガードレールの策定に着手しました。なぜ利用開始に先立つ整備を重視し、どのような議論を経て自社の運用に合うルールを具体化したのか。プロジェクトを担当した時吉正人氏、石井健太郎氏、青木忍氏、株式会社 G-gen の CTO・杉村勇馬氏、同社にてコンサルティング・開発支援を行う第二営業部マネージャー若本岳志氏に伺いました。
トランスコスモス株式会社様
1966年の創業以来、優れた「人」と最新の「技術力」の融合をテーマに事業を広げてきたトランスコスモス株式会社。データ入力業務の受託を出発点に、コールセンター、BPO、デジタルマーケティング、EC など、幅広い事業を展開している企業です。同社はデジタル技術の活用でお客様企業の変革を支援し、国内外の企業の売上拡大とコスト最適化を支えています。
- ※この事例に記述した数字・事実はすべて、事例取材当時に発表されていた事実に基づきます。数字の一部は概数、およその数で記述しています。
AI エージェントを展開する前に利用の基準を整える
トランスコスモスでは以前から、広告媒体のデータを API で取得し、自動でレポートを作成する仕組みを内製してきました。しかし、定型的なレポートだけでなく、ユーザーの要望に応じた柔軟な分析や、広告実績データの読み解きまで支援するには、AI の活用が重要になります。エンジニアリング統括本部 テクノロジー第一統括部 副統括部長 兼 CX事業統括 デジタルエージェンシー事業本部 AX推進統括部 副統括部長 時吉正人氏は、このように語ります。
「ベテランのプランナーであれば、経験からデータをすぐに読み解けます。一方、若手のメンバーや担当する業界が変わったメンバーは、同じようにはいきません。そうしたデータの読み解きを AI で支援できないかと考えました」

エンジニアリング統括本部 テクノロジー第一統括部 副統括部長 兼
CX事業統括 デジタルエージェンシー事業本部 AX推進統括部 副統括部長 時吉正人氏
AI の活用を広げるうえで、同社が懸念したのは、エージェントがデータの参照にとどまらず、実際の操作まで担うことでした。利用者本人の権限を超えた操作や機微な情報へのアクセス、外部システムとの意図しない接続が起きれば、情報管理に影響が及びます。誰が、どの環境で、何を実行できるようにするか。いわゆる野良エージェントへの対策としても、利用を広げる前に、その範囲を定める必要がありました。
同社には機密情報やクラウドサービスの取り扱いに関する既存のルールがありました。一方、AI エージェントが行う操作やデータ連携を踏まえた判断基準は、さらに具体化する必要がありました。利用上のルールをガイドラインにまとめ、設定や運用を通じて利用範囲を管理する。その両面から、AI を安心して使うためのガードレールを整えることを目指しました。加えて、展開までの期間は残り3か月と限られており、早急な整備が求められていました。
「運用しながら調整していくものだということは理解していましたが、何もない状態から始めて、後から制限していくのは非常に煩雑です。まず早急にベースを作っておきたいという考えがありました」(時吉氏)
同社が AI 活用の基盤として選んだのは、Gemini Enterprise です。エンタープライズ規模で利用でき、管理やガードレールの機能を備えていることに加え、これまで Google Cloud を活用してきた実績や、Google 広告との事業上の親和性も選定理由となりました。管理の仕組みをすべて自前で開発・運用する負担を抑え、業務を支援するエージェントの開発に注力したいという考えもありました。
技術的な議論と具体的なアウトプットを求めて G-gen を選定

G-gen が提唱する「AX 4step」。ルール整備を出発点に、AI 活用の成熟度に応じた導入・開発・運用の支援を示す。
こうした基盤づくりを短期間で進めるため、トランスコスモスがパートナーに求めたのは、実地に基づいた技術的な知見でした。一般的な説明だけでなく、自社の環境や運用を踏まえて具体的に議論できることを重視していました。
G-gen を知るきっかけの一つになったのが、Google Cloud や Gemini に関する技術記事です。時吉氏らは自ら技術を調べ、手を動かして検証することも多いため、技術者の視点で踏み込んだ議論ができることを重視していたといいます。記事や登壇を通じて知っていた G-gen の CTO・杉村勇馬氏が支援に参画することも、依頼の後押しとなりました。
「こちらも自分たちで調べ、検証しています。そのため、一般的な説明ではなく、エンジニアの視点で踏み込んだ相談がしたいと考えていました。また、アウトプットを伴わないコンサルティングではなく、実際に形に残る支援をお願いしたいということも最初にお伝えしました」(時吉氏)
当初は数か月をかけ、G-gen が文書を完成させて納品する進め方を想定していました。一方、トランスコスモスは Gemini Enterprise の早期展開を重視していました。そこで G-gen は、自社で草案を作成し、トランスコスモスが正式なドキュメントへ仕上げる役割分担を提案しました。草案を基に両社で内容を詰める進め方が採用され、早期の完成を目指すことになりました。
目次の合意から草案のレビューへ段階的に具体化

G-gen が提案したガイドラインの想定成果物(目次案)。開発者と一般利用者、それぞれに必要なルールを整理している。
この進め方で重要になるのが、両社で目指す成果を早い段階で共有することです。「ゴールの認識合わせや初動のアウトプットで方向性を握ることが肝心だと考えました」と、G-gen の若本氏は振り返ります。支援内容を具体的に共有できるよう、提案段階から目次のイメージを示し、キックオフ直後には仮説に基づく草案を早期に提示するなど、スケジュールを前倒しする工夫を重ねました。
G-gen は初回のミーティングで目次案を提示し、構成への合意を経て、各項目の内容を具体化していきました。「見出しと内容の要点をまとめた Markdown 形式の草案を大きなセクションごとに提示し、週次のミーティングでレビューするサイクルを繰り返しました」と杉村氏。この形式も、内容の検討を優先し、素早く草案を提示・更新できるよう、G-gen が提案しました。
開発者向けには、Google Cloud のセキュリティ、パフォーマンス、コスト最適化や、AI エージェントの開発・運用に関する事項を整理しました。ユーザー向けには、非開発者による生成 AI を使った開発や、ノーコードエージェントの利用上の注意点をまとめています。開発する側と利用する側で整理すべき事項を分け、G-gen の草案に対して、トランスコスモスが自社の運用や要件に照らして意見を返していきました。
「ベストプラクティスとして守るべきこと、推奨されること、要件に応じて調整できることを一つずつ説明していただきました。そのうえで『当社ではこういう運用をしています』と相談しながら書き換えていけたので、自分たちでも取捨選択できたことが良かったですね」(時吉氏)
技術的な根拠や推奨事項を G-gen が示し、トランスコスモスが自社の要件に照らして判断する。この役割分担によって、ルールの意図を理解しながら、自社の運用に合う正式なガイドラインへ仕上げていくことができました。

短期間での策定に向け、提案時に示した役割分担。G-gen が草案を提示し、トランスコスモスが正式な文書に仕上げる。
機能の制約を踏まえて安全性と利便性を両立
Gemini Enterprise 側のガードレールについても、当時設定できる範囲と制約を確認しながら検討しました。必要な機能を利用できる余地を残しつつ、管理側がリスクを把握できる状態を目指したのです。
判断の軸となったのは、エージェントが何を実行し、その安全性を誰が確認・管理できるかという点です。たとえば、生成 AI が作成したプログラムも、動作するだけで安全だとは限りません。時吉氏は、コードの安全性を確認する体制や、エージェントがアクセスするデータ・外部との接続を管理できる範囲を見極める必要性を指摘します。新たな機能を展開する際にも、先行して検証し、利用できる範囲を整理していく考えです。
「今回は、きちんとスタートを切るために、まず重要なガードレールの策定をご支援いただいたと考えています。これからは、エージェントの開発を進めていかなければなりません」(時吉氏)
ガイドライン策定が想定より早く進んだことで、残りの期間には、既存の Google Cloud 環境が策定したルールに沿っているかを確認するアセスメントも実施しました。ガードレールを整える取り組みから得られた、付加的な成果です。
アセスメントでは、既存環境で十分に検討できていなかった設定も見つかりました。エンジニアリング統括本部 テクノロジー第一統括部 DAテクノロジー部 部長の石井健太郎氏は、「自分たちが見落としていたところまで細かく指摘してもらい、非常に助かりました」と振り返ります。ルール策定に加え、既存環境の改善点を把握できたことも、今回の支援の価値となりました。

エンジニアリング統括本部 テクノロジー第一統括部 DAテクノロジー部 部長 石井健太郎氏
開発担当の青木氏も「今回アセスメントで見つかったような問題は、ガイドラインがあることで、今後新しく構築する環境では起きにくくなると思います」と話します。
ガイドライン策定を通じて、G-gen とエージェントの利用シーンや求められるセキュリティレベルを共有できたことも、アセスメントや開発支援を相談するうえでの土台になりました。

エンジニアリング統括本部 テクノロジー第一統括部 DAテクノロジー部 AIテクノロジー課 青木忍氏
ガードレールを土台に AI エージェントの活用を広げる

G-gen が考える AX 変革ロードマップ。AI検討・検証から導入、運用までを一貫して支援する考え方を示す。
取材時点では、Gemini Enterprise を約150名が先行利用しています。今後は、600〜650名規模のデジタルエージェンシー組織への展開を進めていく計画です。
すでに具体的な AI エージェントの活用も始まっています。たとえば、広告の実績データについて自然文で指示すると、BigQuery から必要なデータを取得し、Gemini が内容を解釈して回答するエージェントを開発しました。従来はエンジニアに依頼してクエリを作成していたデータ取得を、現場から直接行える環境づくりを進めています。
「業務を効率化して時間を生み出し、その時間をお客様へのより良い提案や、考えることに使ってもらいたい。広告運用に携わるメンバーにとってメリットのあるエージェントを、これからも展開していきたいと思っています」(時吉氏)
エージェント活用が広がれば、開発や運用に必要な知見もさらに増えていきます。トランスコスモスは、上流のルール設計から開発・運用までを一貫して相談でき、さまざまな企業への支援経験を持つ G-gen との連携を、引き続き検討しています。最新技術や他社のユースケースに関する情報提供、技術的な相談、エージェント開発などが、今後の連携のテーマです。
Gemini Enterprise を現場で活用するために、まず利用の基準を定め、自社の運用に合わせてガードレールを具体化する。G-gen との議論を通じて整えたこの土台を基に、トランスコスモスは AI エージェントの活用を広げようとしています。
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