人手不足とブラックボックス化に悩む COBOL システムを AI で救う

「COBOL を使ってきた企業は、どこもエンジニア不足とブラックボックス化に悩んでいます。生成 AI を使って COBOL の仕様書を作るとともに、新しくオンボーディングした担当者が COBOL について AI に相談できる仕掛けを作ろうと考えました」
東京システムハウス株式会社 比毛寛之氏
「COBOL の仕様書を AI で生成する」という構想を形にした東京システムハウス。30年以上にわたりレガシーシステムのマイグレーションを手がけてきた同社が直面していたのは、COBOL の人手不足化と仕様のブラックボックス化でした。その課題を解決するための取り組みについて、東京システムハウス株式会社の比毛寛之氏、島田桃花氏、横川桃子氏に伺いました。

東京システムハウス株式会社様
東京システムハウス株式会社は、1976年の創業以来、基幹業務システムの開発・運用から、クラウドや AI を活用した先進ソリューションまで幅広く提供する独立系 SIer です。特に COBOL を活用したレガシーシステムのマイグレーション支援に強みを持ち、多くの企業の DX 推進を支えています。
- ※この事例に記述した数字・事実はすべて、事例取材当時に発表されていた事実に基づきます。数字の一部は概数、およその数で記述しています。
人手不足・ブラックボックス化の解消に向けて始動したAIプロジェクト
東京システムハウス株式会社(以下、東京システムハウス)は、多様な業種のシステム開発・運用を手がける IT 企業です。特に COBOL を使ったレガシーシステムのマイグレーションに長年取り組んでおり、近年では Google Cloud を活用したクラウドシフトにも注力しています。
1959年に開発された事務処理向けのプログラミング言語である COBOL は、開発者が減少しています。また、COBOL で開発したシステムはブラックボックスと化してきていました。今回のプロジェクトをリードした、執行役員事業部長の比毛寛之氏は課題に関してこう振り返ります。
「COBOL を使ってきた企業は、エンジニア不足と仕様の不透明化に悩んでいます。特にベテラン開発者の退職後、何がどこで動いているのかが分からなくなるケースが多いのです」
長年の改修やドキュメント不足、担当者の退職などが重なり、システムの内部構造や仕様の把握が困難になるケースが後を絶ちません。このような課題に対して、同社は生成AIを活用して COBOL の仕様書を自動生成し、知識を形式知として蓄積・共有できる仕組みづくりに着手しました。
ハッカソンをきっかけに構想を具体化。パートナーとして G-gen を選定
プロジェクトのきっかけは、2024年の6月と7月に実施された「COBOL × AI ハッカソン2024」です。このイベントは比毛氏が会長を務める非営利団体 COBOLコンソーシアムが主催し、グーグル・クラウド・ ジャパンの協力のもと、生成 AI で COBOL の課題を解決するアイデアを提案するものでした。
イベント後も、生成 AI を使った仕様書作成などに取り組んでいた比毛氏。「予算を組んででも、きちんとしたものを作りたい」という思いから G-gen に相談したといいます。
「G-gen と初めてお会いしたのは Google Cloud Next Tokyo '24 のときです。G-gen は当社のことをきちんと調べたうえで話してくれる、という印象を受けました」(比毛氏)
東京システムハウス株式会社 執行役員事業部長 比毛 寛之 氏
協業開始後は、RAG の仕組みやプロンプト設計、仕様書データのベクトル化、マルチターン対応など、生成 AI まわりの実装を G-gen が技術面で支援。東京システムハウスのチームはその知見を取り入れながら、自社での内製開発を進めていきました。
生成 AI × RAG による「AI ベテランエンジニア」構築
比毛氏のチームが開発を進めたのは、COBOL ソースコードをもとに仕様書を生成したり、その仕様書をもとに質疑応答ができる AI システム「AI ベテランエンジニア」です。開発の過程では(コードをベースに回答する GitHub Copilot と比べて)出てくる情報量が少ないという課題にも直面しましたが、G-gen に相談しながら検証を進めた結果「仕様書にソースコードを埋め込む」という工夫で解決しました。
「人間が読む仕様書だけでなく、AI が参照するための構造化仕様書を別に作ることで、回答精度が大きく向上しました」(比毛氏)
同じく開発に携わったメンバーの一人、マイグレーションソリューション部 クラウドソリューションチームの島田桃花氏はこのように振り返ります。
「Google Chat と Vertex AI の連携部分について、基本的な構成は G-gen のブログを見ながら行うことができました。しかしマルチターンの資料はほとんどなかったため、そのあたりを G-gen に質問してコードを教えてもらうことで、開発時間の短縮や確実な実装につながりました」
東京システムハウス株式会社 島田 桃花 氏
実証実験で確認された成果
構築したシステムは、PoC の段階で目に見える効果を上げています。特に注目すべきは、わずか1週間という短期間で30本の仕様書を自動生成できた点です。従来であれば膨大な時間と人的リソースを要する作業が、大幅に効率化されました。
さらに、新任のエンジニアがこの仕組みを使って COBOL の開発業務を実際に担当し、無事にデリバリーまで到達したことも重要な成果です。仕様書と AI による質疑応答の環境が、新任者のオンボーディングと実務へのスムーズな接続を実現しました。
構成図
「属人化の壁を超えて、新任が自走できたことが一番の成果です。分からないことをその場で AI に聞きながら進めていくという、当初の構想が実現できました」(比毛氏)
マイグレーションソリューション部 基盤ソリューションチームの横川桃子氏はこう振り返ります。
「本業のレガシーマイグレーション向けにもともと COBOL を学習していましたが、分からない部分もたくさんありました。ですが、プロンプト開発の過程で、 AI が生成した仕様書と元のコードを見比べることで、理解が深まったと感じています」
東京システムハウス株式会社 横川 桃子 氏
今後の展開と G-gen への期待
比毛氏は、今後の展開に向けて「管理画面やセキュリティ強化が重要」と強調します。
「ここまでは機能重視で進めてきましたが、お客様に展開するためには、管理画面やセキュリティ面の強化も重要です。G-gen に教えていただきながら、そうした部分の改善にも取り組んでいきます」
さらに、対象言語の拡張についても具体的な構想があります。
「COBOL のほかにも、たとえば金融系ではユーザーが VBA で構築したプログラムがたくさん残っています。今後は対象を広げていきたいです」
AI による「仕様書自動生成」という、新しい価値を生み出す取り組みはこれからも続きます。比毛氏、島田氏、横川氏は「リリース後もまだまだやるべきことがあると思っています。信頼できるパートナーとして、今後も G-gen と一緒に進めていきたいです」と、力強く語ってくれました。
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