性能向上と故障リスク低減の両立へ。DUNLOPが挑むタイヤ開発の AI 内製化

「Google Cloud のエコシステムと生成 AI の連携スピードは圧倒的。サイロ化していたデータを統合し、Excel 管理からの卒業を進めています」
DUNLOP(社名:住友ゴム工業株式会社) タイヤ事業部 技術本部 機能解析部 部長 角田昌也氏
「『こんな性能のタイヤが欲しい』と入力すれば、自動で最適な設計案が出てくる。そんな世界を目指しています」
同 タイヤ事業部 技術本部 機能解析部 主査 牧野彰太氏
DUNLOP(ダンロップ)ブランドのタイヤで知られる住友ゴム工業株式会社。同社のタイヤ事業部 技術本部 機能解析部は、2026年1月より従来のシミュレーション部門と実験評価部門が統合され、発足しました。実験と計算を融合させたアプローチでタイヤの性能予測を行い、開発のスピードと精度を高める役割を担っています 。
同部が挑むのは「タイヤの性能を高め、故障リスクを減らす」という難題です。その実現に向けて、Google Cloud を基盤に、G-gen の伴走支援を受けながら、生成 AI の活用とマルチエージェント化への取り組みを進めています。
住友ゴム工業株式会社様
1909年に設立された住友ゴム工業株式会社。日本で初めて自動車用空気入りタイヤを製造した神戸工場をルーツに持つ、歴史ある企業です。現在は「DUNLOP」をはじめとするグローバルなタイヤ事業を中核に、スポーツ事業、産業品事業、タイヤ空気圧検知システムなどを扱うオートモーティブ事業の4事業を展開しています。
- ※この事例に記述した数字・事実はすべて、事例取材当時に発表されていた事実に基づきます。数字の一部は概数、およその数で記述しています。
複雑なタイヤ設計と、事業部が直面する「性能」と「故障リスク」の二律背反
タイヤは「黒くて丸い」シンプルな外見とは裏腹に、内部構造は多様な材料とパーツが緻密で複雑に絡み合った高度なプロダクトです。
タイヤ開発における最大の課題は、「いかに効率良く『性能』と『故障リスクの低減』のバランスを取るか」という二律背反の命題です。
ひと口に性能と言っても、転がり抵抗、グリップ力、静粛性、乗り心地、耐久性など、考慮すべき項目は膨大で、お互いに影響しあいます。例えば「快適性」を追求しようとすると、今度は「耐久性」に歪みが生じ、走行テストで予期せぬ故障を誘発してしまうということが日常的に起こり得ます。
これまでは、技術者が膨大な試験結果とシミュレーション結果や経験をもとにトライ&エラーを繰り返しながら、最適解を探索検討してきました。しかし、熟練の技術者であっても膨大な性能と故障リスクを完璧にコントロールするのは至難の業です。試作した後に「性能は満たしたが、故障リスク発覚」となれば、設計は構想段階まで巻き戻り、多大な開発コストと時間のロスが発生してしまいます。
この「多数のタイヤ性能と故障リスクを両立したタイヤを短時間で提案できる技術を開発すること」。これこそが、機能解析部に課された真のミッションです。
機能解析部 部長の角田氏は、2026年1月の組織再編に込められた狙いとミッションの定義をこう語ります。
「従来、モデルによるシミュレーションを行う部門と、タイヤ現物で評価解析を行う『実験』部門は分断されており、データもサイロ化していました。『性能と故障リスクのバランス』を最速・高効率で導き出すには、『バーチャル』なシミュレーションと『リアル』な実験データの融合が不可欠です。
2つの部門を統合して発足した我々機能解析部のミッションは、『 AI とデータを武器に、設計の初期段階で性能と故障リスクの最適解をバーチャル上で担保し、一発で合格するタイヤ開発を実現すること』にあります。そのためには、属人化されたデータ管理から脱却し、誰もが過去の知見へ瞬時にアクセスできる強固なデータ基盤が必要だったのです」
決め手は生成 AI の進化と、自走を後押しする「伴走支援」
この状況から脱却するため、同社はクラウドインフラとAI技術の本格的な活用に踏み切りました。数あるクラウドベンダーの中から Google Cloud を選定した理由について、角田氏はこう語ります。
「生成 AI とクラウドシステムの連携スピードが、Google は非常に早いと感じました。また、サーバー管理の手間を省ける『 Cloud Run 』の手軽さや、 コスト面でも『自分たちで手を動かして頑張ってアプリ開発して、従量課金の単価も工夫によって切り詰められる 』というモデルが、我々のスタイルに非常にマッチしていました」

Google Cloud を本格的に導入するにあたり、同社がパートナーとして選んだのが G-gen でした 。ただし、一般的な「システム開発の丸投げ」ではなく、同社がこだわったのは「自走可能な内製化」でした 。同部門の牧野氏は次のように説明します。
「システムをブラックボックス化させたくありませんでした 。アプリを丸ごと作ってもらうのではなく、『自分たちで開発・運用できるようになるための手順やアドバイスをもらう』という伴走スタイルを求めており、G-gen はその要望に完璧に応えてくれました 」
G-gen は、実質的な検証(PoC)を重ねながら要件定義を行い、環境構築の手順書やマニュアルの作成を徹底してサポートしました 。IT やクラウドの経験が浅かった同社のメンバーも、この伴走を通じて実践的なスキルを短期間で習得することができたといいます。
また、こうした取り組みを社内から力強く支えたのが、機能解析部 AI ソリューショングループの福永氏です。現場の課題に粘り強く、ひたむきに向き合うその姿勢がチーム全体のモチベーションを高め、率直に意見を交わせる前向きな開発環境とともに、プロジェクトを大きく前進させる原動力となりました。
PoC から内製 RAG へ。「自分たちで作れる」データ基盤と開発力の獲得
プロジェクトは現在、3つのステップを経て着実に成果を上げています。
ステップ1:入力ファイルのバグ取りPoC
タイヤのシミュレーション(FEM)における膨大な設定ファイルのエラー(バグ)や、過去のトラブル事例を生成AIで検索・修正するためのプロトタイプを作成 。柔軟に要件定義を重ね、実装への道筋をつけました 。
ステップ2:シミュレーション結果の検索性向上と内製化への基盤づくり
散在していたシミュレーションデータを「 BigQuery 」へ集約し、Python の Web フレームワークである「 Streamlit 」を用いたユーザーフレンドリーな検索UIを自社で構築 。G-genが作成した手順書を元に、自分たちでツールを作れるノウハウを社内に蓄積しました 。
ステップ3:Gemini Enterprise Agent Platform を活用した故障予測 RAG の内製化
BigQuery に集約したデータを土台に、設計データ・FEM(シミュレーション)結果・部門統合で集約した実験データを紐づけ、過去の技術資料やトラブル事例を AI に参照させる故障予測 RAG(検索拡張生成)ツールを「Agent Platform」で内製開発。ステップ1・2で培った「クラウド上に、誰もがアクセスできるツールを自分たちで構築する」ノウハウと、G-gen が整備した手順書・生成 AI 活用ガイドラインを土台に、開発の主導権を社内に残したまま自走で開発を進めています。
脱・Excel と、マルチエージェント化による「自動設計」の未来へ
DUNLOP が次に見据えるのは、各担当者が個人で管理しがちな「 Excel 文化」からの完全な脱却です。すべてのデータを BigQuery などのDBに統合し、集合知として共有・視覚化する仕組みづくりを進めています 。
そしてその先にある究極のゴールが、「AIと技術者が共創する革新的なタイヤ設計」です 。
現在は、「 Agent Platform 」を基盤に、設計データに基づく性能予測と、過去の知見に基づく故障リスクの算出を連動させる「故障予測ツール」の開発を内製で進めています 。将来的には、複数の AI エージェントがこれらのツールを自律的に呼び出し、連携し合うシステムを構想しています。
牧野氏は、同部が描く未来のタイヤ開発のあり方をこう結びました。
「目指しているのは、『こんな性能のタイヤが欲しい』とシステムに入力すると、複雑な制約や故障リスクをクリアした最適な設計案が効率的に探索でき、トライ&エラー無く、高度なタイヤ設計が出来る世界です。単なる一過性のツール開発ではなく、G-gen さんとの協業で得た『自分たちでクラウド上にシステムを構築できるノウハウ』があるからこそ、この先の高い目標にも、自分たちの手で挑み続けることができると確信しています」

複雑なタイヤ開発の現場において、社員一人ひとりの探究心と、G-gen の力強い伴走支援が掛け合わさることで、DUNLOP のデジタルトランスフォーメーションはこれからも加速し続けます 。
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