ドローン× Vertex AI で災害対応を迅速化 画像解析の時間が数日から数時間へ

「こんなに早く、高い精度で損傷箇所を見つけられるのかと素直に驚きました。オルソ画像化を待たずに危険箇所を特定できる、新しい武器が手に入ったと感じています。この技術を製品化し、災害対応の迅速化に貢献したいです」
そう語るのは、エアロセンス株式会社でクラウド開発を率いる菱沼倫彦氏です。
同社は、自社開発のドローンとクラウドサービスを連携させ、撮影した画像データを迅速に解析するソリューションを提供しています。特に災害発生時には、迅速な状況把握が求められますが、データ処理に時間がかかるという課題がありました。
この課題を解決するため、G-gen の支援のもと、Google Cloud の AIサービス Vertex AI と Gemini を活用した PoC(概念実証)を実施。その結果、従来2~3日かかっていた解析時間を数時間に短縮できる可能性が見えてきました。
本記事では、PoC 成功の背景と、AI がもたらす災害対応の未来について、クラウド開発部 統括部長の菱沼氏に詳しく伺います。

エアロセンス株式会社様
2015年の設立以来、ドローンによる空撮技術とクラウドサービスを融合させたソリューションを提供しているエアロセンス株式会社。同社では自社開発の VTOL 型ドローンが測量やインフラ点検、災害対応など幅広い分野で活用されるとともに、取得した画像データを効率的に処理・活用できるクラウドサービス「エアロボクラウド」も展開。ドローンの運用からデータ解析まで一貫した支援体制を強みに、現場の業務効率化を推進しています。
- ※この事例に記述した数字・事実はすべて、事例取材当時に発表されていた事実に基づきます。数字の一部は概数、およその数で記述しています。
ドローンによる被災調査--「2~3日」かかっていた解析時間の壁
エアロセンス株式会社ではドローンによる空撮から画像解析まで行うワンストップのソリューションを提供しています。同社のサービスは地震や豪雨など大規模災害の被害調査でも活用され、被災状況の把握や被災者の捜索などに大きく貢献してきました。
2024年1月に発生した能登半島地震では、同社の VTOL 型ドローンが活躍しました。人が進入困難なエリアの奥深くまで自動航行し、被害状況を撮影。しかし、菱沼氏はこの活動を通して改めて課題を実感したと言います。
「撮影した膨大な画像から、まず地形の歪みを補正したオルソ画像を生成し、そこから被害箇所を目視で特定するのがこれまでの流れでした。しかし、このオルソ画像の生成に2~3日かかってしまう。一刻を争う災害現場で、このリードタイムは大きな課題でした。もっと早く危険箇所を特定し、二次災害の防止や復旧計画に役立てたいという強い想いがありました」
地震や豪雨など災害発生時、「いかに早く被害状況を把握し、次のアクションにつなげるか」が現場の最大の課題です。こうした課題に対応するため、同社では画像データの解析や異常検知のさらなる迅速化に取り組み始めました。
創業期を支えた Google App Engine。最新AI技術への期待
実は、エアロセンスと Google Cloud の付き合いは創業当初の2015年に遡ります。菱沼氏は当時をこう振り返ります。
「設立当初、クラウド開発は1~2名の少人数チームでした。AWS も試しましたが、インフラの専門知識がなくてもコードを書くだけでサービスを迅速にデプロイできる Google App Engine は、"早く動くものをお客様に見せたい"という私たちのニーズに完璧に合致していました。人的リソースをかけられない状況で、その使いやすさは圧倒的でした」
長年利用してきた信頼感に加え、自社でも TensorFlow 等で AI 開発を進めていた同社は、Vertex AI や Gemini といった最新 AI の登場に注目。自社でのモデル開発・運用の手間をかけずに、より高度な画像解析が実現できるのではないかと考え、G-gen と共に PoC に踏み出しました。
精度97%!G-genとの伴走で確立した「AIによる一次判定」フロー
PoCの目的は、オルソ画像化という時間のかかる工程を省略し、撮影した生の画像から直接 Gemini で損傷箇所を検出すること。実施された PoC では、G-gen が技術検証を強力にサポートしました。
「私たちには生成 AI に対する知見が乏しかったため、G-genの支援は非常に助かりました。特に、AI への指示(プロンプト)をどう構造化すれば精度が上がるか、5~6つの異なる観点から検証パラメータを設定するといったノウハウの共有は、我々だけでは辿り着けなかった視点です」(菱沼氏)
PoC の結果は驚くべきものでした。山崩れや道路の損壊といった損傷を言い当てる精度は97%を達成。課題だった解析時間は、1枚あたり最速3秒まで高速化。さらに並列処理の実験では0.数秒/枚のポテンシャルも見え、従来2~3日かかっていた作業が、数時間から半日程度で完了する目処が立ちました。
「バウンディングボックス(損傷箇所の囲み)の精度にはまだ課題はありますが、"この画像は怪しい"と AI が瞬時に教えてくれるだけでも大きな前進です。現場の負担を劇的に減らせると確信しました」
構成図
「数日が数時間に」----現場に広がる驚きと期待
PoC の成果として最も目を引いたのは、被害箇所の特定までに要する時間が劇的に短縮されたことです。従来は、撮影からオルソ画像生成・目視確認まで2〜3日かかることも珍しくありませんでしたが、生成 AI の活用によって「最速で数時間から半日以内」には異常箇所のおおまかな特定が可能になりました。
「こんなに早く、高い精度で劣化箇所を見つけるのかというのが素直な感想です。AI が1画像あたり数秒で処理してくれるため、従来は人手で1枚ずつ確認していた作業が格段に効率化されました」と菱沼氏。
エアロセンス株式会社 クラウド開発部 統括部長 菱沼倫彦 氏
現場からは「これまで数日かかっていた作業が、その場で"当たり"をつけられるのは驚き」「自治体や関係機関への情報提供が格段に早くなった」という声が寄せられ、社内でも「AI とクラウドの組み合わせで現場が大きく変わる」と期待が高まっています。
AI を「武器」に、社会実装へ。G-gen と共に描く未来
この成果を受け、社内からは「こんなに精度高く言い当てるのか」と驚きの声が上がりました。
「自治体やインフラ管理者へ『オルソ化を待たずに概略点検が可能です』と提案できる、新しい武器が手に入りました。今後はこの技術を『エアロボクラウド』に正式に組み込み、検出した損傷箇所を地図上にマッピングしてフラグ表示する機能を社会実装したいと考えています」
AI の導入は、労働人口が減少する日本において、人手不足という社会課題の解決にも繋がります。エアロセンスは、AI を単体のサービスとしてではなく、ドローンを活用したトータルソリューションの一部として提供することで、インフラ維持管理の新しい形を提案していきます。
最後に菱沼氏は、パートナーとしての G-gen への期待を語ります。
「G-gen は、私たちの課題を的確に捉え、自走できるよう支援してくれる心強いパートナーです。今回の PoC は、私たちにとって大きな"着火剤"となりました。今後は Vertex AI を活用した詳細なオブジェクト検出や、Claude など他のLLMの検証も視野に入れています。AI とクラウド活用の領域をさらに拡大するため、これからも一緒にチャレンジしていきたいですね」
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