クラウドとオンプレミスの減価償却と会計処理・税務処理について

クラウドとオンプレミスの減価償却と会計処理・税務処理について

近年、クラウドサービスを利用する企業が増えていますが、一方で、オンプレミス運用を続けている会社も少なくありません。クラウドとオンプレミスは比較されることが多いですが、減価償却や会計処理・税務処理の観点で比べたことはありますでしょうか?

クラウドとオンプレミスは、多くの機能差分があるだけでなく、会計や税務上の処理方法も大きく異なります。場合によっては、会社の財務状況に多大な影響を与えるケースも多いでしょう。

本記事では、クラウドとオンプレミスの減価償却と会計処理・税務処理について、詳しく解説します。クラウドに関しては、利用者・提供者の2つの目線から説明していますので、ぜひ最後までご覧ください。

なお本記事の内容は、「研究開発費等に係る会計基準」を参照にして、わかりやすく要点をまとめて記事を作成しております。

 

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クラウドとは?

クラウドとは「インターネット上の仮想基盤」を意味する言葉です。PCやスマホなどの端末にデータを保存するのではなく、インターネット上に存在する仮想空間(サーバー)に保存して、運用することを「クラウド化」と言います。

身近な例を挙げると、「Googleドライブ」や「Dropbox」などのクラウド型オンラインストレージサービスが有名です。保存したファイルはサービス提供者のサーバーに保管され、利用者は利用デバイス、時間、場所を問わずにファイルにアクセスすることが可能になります。

一般的にクラウドは、「SaaS」「PaaS」「IaaS」という3つに分類されます。それぞれの詳細は、次章で詳しくご説明します。

クラウドの種類の分類

SaaS

SaaSとは、アプリやソフトをクラウド上で動作させるクラウドサービスの形態です。該当するサービスは、「Google Workspace(旧G Suite)」、「Microsoft365」、「Dropbox」などが挙げられます。

PaaS

PaaSとは、アプリの開発環境を仮想空間上で提供するクラウドサービスの形態です。該当するサービスは、「Google App Engine」、「Microsoft Azure」などが挙げられます。

IaaS

IaaSとは、システムのインフラを仮想空間上で提供するクラウドサービスの形態です。該当するサービスは、「Google Compute Engine」、「Amazon Elastic Compute Cloud」などが挙げられます。

SaaS、PaaS、IaaSに関しては、以下の記事で図解つきで詳しく解説しています。
図解でわかる!SaaS、PaaS、IaaSの違いとクラウドサービスとの関係性について

クラウドとオンプレミスの違い

クラウドとオンプレミスは多くの点で違いが存在します。下の表では、クラウドとオンプレミスの違いをまとめています。コスト面からセキュリティ面まで、様々なポイントに違いが表れています。

オンプレミス クラウド
コスト形態 資産 経費
初期費用 高め 低め
導入までの期間 数週間~数か月 アカウント登録後すぐ
カスタマイズ性 自由に可能 制限あり
セキュリティ 自社内ネットワーク環境下で運用 災害時に強い

※出典:オンプレミスとクラウドの違いとは?メリット&デメリット、移行の注意点も解説

クラウドの会計・税務処理方法

コンピューターシステムのソフトウェアに関する会計処理については、1998年に公表された「研究開発費等に係る会計基準」と、その実務上の取り扱いに関するものとして1999年に公表(2011年及び2014年に改正)された「研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針」がベースになっており、クラウドサービスに関する会計処理もこの基準を元に行われています。

クラウドを利用した場合の会計・税務処理方法

クラウドの場合、サービスを利用するための設備を保有しているのは、利用企業ではなく、サービスの提供元(プロバイダ企業)です。そのため、クラウドサービスの月額料金は、原則として費用に計上することができます。

SaaS型クラウドの場合、契約後すぐに利用を開始することができます。難しい設定は必要なく、導入に伴うカスタマイズなどの初期費用もほぼ発生しないため、プロバイダ契約料や月額利用料は費用として処理します。

一方、PaaS型クラウドやIaaS型クラウドの場合は、契約内容によって会計処理が異なるケースが出てくるため、注意が必要です。PaaSで提供されるプログラム実行環境やデータベースなどのプラットフォーム、またはIaaSで提供されるインフラ環境だけでは、ソフトウェアやアプリケーションを使えません。あくまで利用企業側で、構築作業をする必要があります。

前述の実務指針では、「導入に当たって必要とされるカスタマイズ費用は取得価格に含める」旨を定めています。PaaSやIaaSの場合は、クラウドサービスの月額利用料は費用として計上する一方で、自社で構築したシステムやアプリケーションなどのカスタマイズ費用は無形固定資産として計上することになります。

また、実務指針ではソフトウェアを無形固定資産として計上する場合、減価償却をする耐用年数は5年以内を原則としており、「定額法による償却が合理的である」と指摘しています。5年を超える期間で償却する場合は、合理的な根拠を示さなければなりません。

また、税務上クラウドサービスは繰延資産として扱います。クラウドサービスは、1年以上の継続利用を想定されており、初期のカスタマイズ料は資産として計上し、サービスの利用開始から終了まで定期的に費用として償却していく方法が採られています。

実務の手続きとしては、まず繰延資産として計上し、複数年にわたって損金算入します。そのため、継続的に減価償却超過額が発生しているものとして扱い、翌年度以降に償却限度額を超えない範囲で損金として計算されていきます。

自社利用のソフトウェアについては、以下の計算式に基づき、減価償却費の金額を補正します。

(当事業年度の減価償却額) = (前事業年度末における未償却残高) × (当事業年度の期間) / (当事業年度を含む見直し後の残存利用可能期間)
出典:「研究開発費等に係る会計基準」

このとき、税務上の耐用年数はソフトウェアの償却期間である5年又は、契約期間が定められている場合はその期間が妥当と考えられます。なお、月額利用料は税務上も費用の扱いとなります。

クラウドを提供した場合の会計・税務処理方法

前述の実務指針には「市場販売目的のソフトウェアの取り扱い」という項目があり、主にソフトウェアを市場に供給販売するベンダー企業がソフトウェア製品を制作する場合の会計処理の方法が示されています。

これによると、サービスの完成に向けた研究開発が終了するまでの、制作活動にかかる費用は研究開発費として処理します。研究開発の終了は、「製品番号を付すこと等により、販売の意思が明らかにされた製品マスター、すなわち最初に製品化された製品マスターの完成時点」と定義されています。

この時点までの制作活動は研究開発と考えられるため、ここまでに発生した費用は研究開発費として処理します。また、「最初に製品化された製品マスター」の完成時点は、具体的には次の2点によって判断します。

完成後の改良により発生した制作活動の費用は「制作原価」として資産計上されます。製品マスターについては、適正な原価計算によって、その取得原価を算定します。

製品マスターの制作原価は、制作仕掛品についてはソフトウェア仮勘定などの勘定科目により、また、完成品についてはソフトウェアなどの勘定科目によって、いずれも無形固定資産として計上します。

なお、無形固定資産としての表示に当たっては製品マスターの制作仕掛品と完成品を区分することなく、一括してソフトウェアその他当該資産を示す名称を付した科目で掲げ、制作仕掛品に重要性がある場合には、これを区分して表示することが望ましいとされています。

クラウドサービスの提供においても、上記ルールに沿った形で会計・税務処理を進めていく必要があります。

オンプレミスを利用した場合の会計・税務処理方法

次にオンプレミスを利用した場合の会計・税務処理方法について、ご説明します。一般的にオンプレミスのサービスを提供されることは少ないですが、仮に利用した場合はどうなるのか?という観点でご覧ください。

自社でサーバーやデータベースを構築し運用するオンプレミスのケースでは、サーバーを保管しておくための土地や置屋といった物理的なスペースが必要です。オンプレミスではサーバーを自社で購入するため、自社設備として資産計上し、その取得価格を使用期間にわたって減価償却という手続きを通して各年度に費用配分を行います。

また、初期費用が購入時に一度に発生し、購入費用はサーバーの機能やスペックにより、数万円から百万円以上のものまで多岐にわたります。条件に当てはまるものは償却資産とみなされ固定資産税の対象となります。

サーバーを購入する場合はIT関連機器としてリース契約することも可能ですが、初期費用をリース期間に応じて平準化できるなどのメリットがある反面、リース会社の手数料等で支払い総額が高くなり、途中解約できないといったデメリットもあります。

まとめ

いかがだったでしょうか。クラウドとオンプレミスの減価償却と会計処理・税務処理について、ご理解いただけましたでしょうか?

クラウドとオンプレミスは、それぞれ特徴が異なっており、機能やサービス特性だけではなく、減価償却や会計処理・税務処理においても大きな違いが存在します。一般的には、初期費用が発生せずに会計処理上も費用として計上できるクラウドの方がメリットが大きいと言えます。

クラウドサービスにおいては、機器調達、可用性・セキュリティ担保、バックアップ、メンテナンス作業などをクラウド業者が行うため、自社でコストが発生せず、保守管理の人員も不要です。ただ一方で、それらの料金は月々の利用料金に含まれているため、トータルで考えると高い金額を払うケースもあります。

本記事を参考に、クラウドとオンプレミスの違いを理解し、自社に適したサービス形態をぜひ検討してみてはいかがでしょうか?

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